野呂芳男<書評>『カトリックとプロテスタント』(1959) 
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<書評>
オランダ改革派教会教書、乾慶四郎訳
『カトリックとプロテスタント』 新教出版社

 初出:『福音と世界』1959年6月号、新教出版社、25頁
 野呂芳男



 この書物はフランスにあるカルヴァン協会から出されている雑誌である、ラ・ルヴュ・レフォルメの特集号として、1952年に刊行された。翻訳者は非常に良心的に苦労して訳していることが読んでよく解る。ほとんど読みにくいところなどなく、まことに立派な良くこなれている翻訳であると思う。序文によると、この書物の目的は、第二次世界大戦後勢力を得つつあるカトリック教会の教理を一般のプロテスタント教徒に理解させるところにある。叙述の順序は、先ず最初にカトリック教会の立場が書かれているが、それを非常に簡潔に、しかも正確に理解させるような配慮がなされている。その次に、いかなる理由でプロテスタント教会がカトリック教会からその教理を異にしているかということが、それらの一つ一つの点において聖書を基にして叙述され、同時にカトリック教会の教理的立場が批判されている。

 内容的に言うならば、先ず全体としての問題の所在が書かれており、次に聖母マリヤ、人間について、恩恵について、秘蹟について、聖職者について、善行について、根本的ないくつかの相違について、ローマ教会と社会生活について、ローマ教会と宗教改革について、ローマ教会について、となっており、非常に詳しくローマ教会とプロテスタント教会の相違をいろいろの面からとりあげて叙述している。もちろんこの書物では全般的に宗教改革的な、特にカルヴァン的な線が打ち出されており、その立場からローマ・カトリック主義が批判されている。

 全体としての問題の所在の後で、ただちに聖母マリヤについてのローマ・カトリックの教理がとりあげられていることは、実はこの聖母マリヤの教理の中にカトリック教会の根本的な立場であるところの、神の恩恵と人間の良き業との協力による救いという立場が実によくあらわされているからである。ここから出発して、人間観、特に秘蹟の問題、聖職者の問題等において、神と人間との協力による救いというローマ・カトリックの立場がどのようにして結局あのような礼典至上主義や教権主義を生み出したかを、きわめて良く叙述している。

 特に読者を喜ばせることは、単にこの書物がローマ・カトリック教会の教理だけにふれているのではなくして、相当くわしくローマ教会の社会生活に対する態度、例えばローマ教会の結婚に対する態度、またその非寛容性、勢力拡大への意欲等についても述べていることで、これは非常に参考になる。またローマ教会とプロテスタント教会の合同の問題にもふれているが、もちろんプロテスタントの立場からの発言であるから、単なる合同の主張よりも寧ろ神に服従してゆくことを強調しており、或る時には合同することを犠牲にしても神に服従してゆくべきであるという立場が強く打ち出されている。

 日本のようなプロテスタント教徒およびカトリック教徒を全部あつめても総人口の1パーセントにも満たないようなところで、何かこのようなプロテスタントとカトリックとの間の教理の相違というようなことを真剣にとりあげることは、縁遠いかの感をある人には抱かせるかも知れない。しかし、プロテスタントとカトリックとの相違は、福音を真実に理解するためにはすべてのプロテスタントが知らなくてはならないことである。また簡単に感傷的な仕方でプロテスタントとカトリックとの協力というようなことも言えないという厳しい現実を認識する必要があるのである。その点から言っても、この書物はすべてのプロテスタント教徒に読んでもらいたい。非常に立派な書物であるということが出来る。

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入力:平岡広志
http://www.geocities.co.jp/SweetHome-Brown/3753/
2003.6.28