レビュー 野呂芳男『ジョン・ウェスレー』2005
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<書評2>野呂芳男『ジョン・ウェスレー』
( 「クリスチャン新聞」2006年1月29日号書評欄、12頁)
日本フリーメソジスト西田辺伝道所、 岩本助成牧師
「綿密な資料研究に基づく独自の解釈」
ジョン・ウェスレー研究文献に、卓越した1冊が加えられた。野呂芳男氏は、代表的ウェスレー研究者であり、青山学院大学や立教大学で教えたすぐれた教師だが、現在、単立教会ユーカリスティアなど、多くの方々を導く「牧師職人」である。入院生活の試練を乗り越えて4冊目のウェスレー研究書を世に問われた。高い評価を得た前著『ウェスレーの生涯と神学』から30年。この間の研究の集大成こそ、本書であろう。
ウェスレーの生涯が綿密な資料研究に基づき、独自の解釈を加えながら的確に述べられる。神学思想(神学的認識論、人間論、キリスト論、キリストの御業、義認と聖化、キリスト者の完全、聖霊による確証)の明解な解釈は、本領発揮の部分。さらに、著者の実存論的解釈と、アウトラー、ランヨン、カブという代表的なウェスレー学者の解釈との対論が続く。先年、ウェスレー国際学会(オックスフォード大学)において、野呂氏の研究と貢献を高く評価し評者に語ったランヨン博士の言葉を思い起こす。
結びは、ウェスレー研究の将来の展望と提言である。本書の「栞」(出版への労をとられたユーカリスティア牧師、林昌子氏による)によれば、野呂氏は本書出版後も、ピューリタニズムとの関係の再検討、ウェスレーによる民間医療書への注目、モラヴィア兄弟団とのかかわりの再考など、その学問的関心は止むことがないという。
資料の扱い方と解釈の妙、独自で明解な発想(渋滞の中で、立体道路の通行から「次元の相違」を発想されたこと、また幼い日、東京下町での職人芸への思い出など)キリスト者の完全における愛の理解、特にアガペーとエロスのかかわりなど、多くを教えられた。しかし、受けた感銘の大きさゆえに本書で立ち止まることなく、ウェスレーの著作を読み直しつつ、教示された問題点を熟考していきたい。生誕300年を経て、ジョン・ウェスレーの研究はいよいよ広まり、深まるに違いない。
(2006.01.31 up)
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